爪・ネイル 沖縄の伝統文化をネイルで継承。『ハジチ』のネイルデザインに込められた想いとは?

『ハジチ(針突)』とは、琉球女性の手の甲に模様を施した入れ墨のこと。沖縄・奄美でかつて行われていましたが、起源や伝令が明らかになっていません。そんな謎に包まれているハジチをネイルデザインに取り入れ、世の中の人に知ってもらいたいと活動しているネイリスト、荷川取 舞さんにお話をうかがいました。

昔から噛み癖や深爪がコンプレックスだったという荷川取さん。一度は事務職に就職したものの、一念発起してネイリストに転身。フリーランスとして活動をしています。

 

「もともとお客さんとしてネイルサロンに通っていて、デザインを考える時間がとても楽しかったんですよね。また、幼いときから深爪や噛み癖に悩んでいたのですが、ネイルサロンに通うようになってからそのコンプレックスが解消されたんです。そこで、『自分と同じようなコンプレックスを持っている人のためになりたい』と、一度は就職をしたものの、ネイリストになることを決めました。最初はサロン勤務も考えたのですが、紆余曲折あってフリーランスとして活動をスタートすることに。今は自宅サロンの一角をお借りして、お客様に施術をしています」(荷川取さん)

 

『ハジチ』との出合い

2021年の秋に開業してすぐ、『ハジチ(南西諸島の入れ墨)』との出合いが突然訪れる。

「ネイリストとして活動をし始めて1ヶ月くらい経ったある日、自宅サロンのオーナーのご友人である比嘉かおるさんと出会いました。比嘉さんは当時、ハジチをネイルデザインに取り入れてくれる人を探していました。私はハジチを知らなかったのですが、比嘉さんからお話をうかがい、とても興味を持ちました。比嘉さんは、大洋州の島国のような独自のタトゥー文化が沖縄にあり、みなが知らない間に文化が消えていってしまったこと。同じウチナーンチュ(沖縄人)でも年代によって沖縄独自の文化への価値観はさまざまだけれども、苦労をしてきた先人があって今の自分たちがあり、うちなーんちゅとしてハジチは誇らしい歴史であることを教えてくれました。少しでも多くの人に、とくに地元の人たちにハジチを知ってもらいたいというお気持ちを持ってらっしゃいました」(荷川取さん)

 

沖縄本土で育った荷川取さんも知らなかった『ハジチ』。実は沖縄の人でも知らない人が多く、知っていたとしても、ネガティブなイメージを持っている人も多いという。

 

「比嘉さんからお話をいただいてから、ハジチの文献などを読み、ハジチについて調べていきました。ハジチはもともと琉球の女性が初潮を迎えた印や婚姻の証、極楽浄土に行けるようにと願いを込めて入れるなど、さまざまな意味合いを持って彫られたものでした。結婚前に亡くなってしまった女性の場合にはご遺体にも入れるほど、大切なものとされていたそうです。ハジチの模様はとても美しく、『女性であるからには絶対に入れなくてはならない』と考える人も多く、琉球女性にとって大事なものでした。いつから女性たちがハジチを入れ始めたか明確にはわかっていませんが、1899年入墨禁止令が日本政府から出される前までは流行していたようです。ハジチは琉球女性の象徴のような扱いだったにもかかわらず、入墨禁止令が出されたことにより、ハジチを施している女性は、次第に差別的な扱いを受けるようになったといいます。もともとは女性の憧れだったハジチがまったく逆の扱いをされることになり、入れた人たちは後悔をすることになったとか……。耳をふさぎたくなるような悲しいエピソードもたくさんあり、ハジチが入っていることを隠す人もいたそうです。そのような事実があるなかで、自分がネイルデザインにハジチを取り入れ、広めていっていいのかと不安に思うこともありました。しかし、比嘉さんの強い想いと、私自身が沖縄人として沖縄の伝統をしっかりと後世に残して生きたいという気持ちがあったので、ネイルデザインに取り入れることを決めました」(荷川取さん)

 

思いがけないお客様の反応

サロンに訪れる多くの人が、ハジチを知らないと話す荷川取さん。しかし、サロンで初めてハジチを知り、興味を持ってくださるお客様やハジチに特別な想いをもって来店する方もいらっしゃるという。

 

「ハジチのネイルデザインを取り入れてから約1年経ちましたが、ハジチをご存知ないお客様がほとんど。『ハジチってなんですか?』と質問されることがあるのですが、ハジチを知ってもらえるきっかけになるので、それだけでもうれしいな、と思っています。私のサロンでハジチを知って、お友達に勧めてくださるお客様もいるんですよ。また、逆にハジチをご存知のお客様で『おばあちゃんがハジチを入れていたから、自分もやってみたい』と言われたり、宮古島に思い入れがあって、ハジチネイルを選んでくださるお客様もいます。一度ハジチの模様を入れるようになってから、リピートで毎回入れている方もいらっしゃいますよ」(荷川取さん)

「ハジチは、模様によって意味が異なります。また、島によってさまざまな形があり、模様を見ればどこの地域の女性かわかる、と言われます。ただ、調べてもわからないことが多く、その時代に生きたご存命の方がおらず、直接お話を聞けないことが悔やまれます。個人的には、弓矢の形の模様はとてもお気に入りです。魔除けや極楽浄土にいけるようになどの意味合いがあります。また、アマン (ヤドカリのことをアマンと言います)という丸い模様も好きですね。この模様はヤドカリという意味があるのですが、琉球では、「人間はアマン(ヤドカリ)から生まれてきた」という言い伝えがあり、生まれたことに感謝という意味も込められているそうです。島によって、アマンの形や意味も様々なのでとても興味深いです」(荷川取さん)

 ハジチをより多くの人に伝え、伝承していきたい

 「ハジチをネイルとして発信していくことがいいことなのかと迷っている時期もありました。しかし、歴史として事実あったことは、伝えていかなければいけないことだと思っています。沖縄だけでなく、全国の方にも興味を持っていただけたらうれしいですね。『ハジチネイルを見ているとおばあちゃんを思い出す』など、ハジチネイルでハッピーになってくださる方もいらっしゃるので、そういった面でも微力ながら貢献していきたいです。また、ハジチはすごく繊細なデザインで、ずれるとすぐわかってしまうので、施術がとても大変。将来的には ハジチにご興味のあるお客様に、誰でもご提供できるよう、ネイルシールの開発などもできたらいいなと思っています!」(荷川取さん)

 

伝統文化をネイルで伝えていくという新しい試みをしている荷川取さん。こういった文化の伝承の仕方も、今後さらに増えていくかもしれませんね。

 

お話をうかがったのは……

荷川取 舞さん

2021年6月にネイリスト養成科を卒業後、フリーランスとして活動を開始。友人の自宅サロンの1席を借りながら施術をしている。かつて、沖縄の文化であった「ハジチ」をネイルにデザインし、「ハジチネイル」としてメニュー化。地元の方、県外の方にもハジチの文化を知ってもらえるよう、日々活動している。

 

【公式インスタグラム】

https://www.instagram.com/nailoli._mai/?igshid=YmMyMTA2M2Y%3D

 

ライター/澤 薫

  • いいね 
  • 応援したい 
  • 初耳 
  • トライしたい