『男性がネイルサロンへ行く』となると、残念ながら日本ではまだまだ敷居の高いイメージがあるのはみなさんもご存知かと思います。
けれども、アメリカではビジネスマンが日頃の身だしなみの一つとして、靴やスーツを整えるのと同じように爪や指先をケアすることはごくごく一般的なことです。
そこで、今回は私が実際に施術した男性のお客様のエピソードをご紹介したいと思います。
ある日のこと
私が都内の駅前にお店を構えてからしばらくした頃、ある男性の方から問い合わせの電話がありました。
「男性でもネイルのケアってしてもらえたりするんですか?」というとても控えめな問いに私は「もちろん!」とお答えしご予約を承りました。
きっと、電話をかけることもサロンに足を運ぶこともだいぶハードルの高い勇気のいる行動だったのだろうと察し、なるべく気を遣わないでいられるよう他のお客様が居ない時間帯にご来店いただいたのを覚えています。
当日、不安そうにご来店くださった男性のお客様(以後Aさん)をひとまずお席にご案内してカルテを書いていただいてから、他のお客様と同じように接することを心がけて私も席に着きました。
私はAさんに「初めてのネイルサロンですか?きっと『何をされるんだろう』『男の人なのに行って大丈夫だろうか』など不安もあったかと思います。そんな中でご来店くださり誠にありがとうございます!」とお礼を言って、メニュー内容を丁寧にお伝えしヒアリングを済ませました。手荒れが気になるとのことだったのでウォーターケア(手指先をお湯に浸してふやかしながら角質を取り除くケア)を始めました。
私はAさんに施術をしながら「なぜ当店に来ようと思いお電話くださったのか」の経緯を尋ねました。するとAさんはご来店のきっかけをお話しくださいました。
来店のきっかけ
「実は先日、自分の経営するパン屋に〇〇ナンデスの取材が来て、うちのおすすめのパンをテレビで紹介してもらったんです!その際お店の紹介VTRが流れ、そこでパンを作る自分の手元がテレビにアップで映ったのです。その時初めて『自分の手の汚さ』を客観的に見て愕然としました。」とお話ししてくれました。
たしかに自分の手を客観的に、しかもテレビを通して見る機会ってなかなかないですよね…さらに全国放送ともなれば日本中の視聴者さんが自分の手を見ていると思い更に恥ずかしくも感じたのでしょう。Aさんのお話は続きます。
「それをきっかけに、この荒れた手と指先を何とかしなければ…と思い悩んでいたところ、たまたまパン屋で働いているスタッフの中に、元ネイリストの子がいて、スクラブやネイルオイルを使ってみては?と勧めてもらい薬局などで買って試してみました。ところがあまり改善されず、自分でやるには限界がある、プロのお力を借りようと思い、駅の近くで男性にもケアをしてくれそうなサロンを探していました。商業施設などに入っている所は他のお客様からも見えてしまうので恥ずかしいしネイルアートが優先な感じがして…ケアだけのメニューがある所がないか探してこちらにお電話しました。」と話してくださいました。
きっと身近に居た『ネイルサロンへ行ってみたら?』とアドバイスしてくれる人の存在も大きかったと思います。
はじめてのネイルケア
他にもAさんの爪に関する悩みだけではなく、ご自身でパン屋さんを始めようと思ったきっかけや小さいお子さんのいるパパさんであることなども聞かせていただきました。私は常に共感をしながらさりげなくお仕事への熱意や普段の生活習慣をおうかがいし、できる限りの施術をさせていただきました。
ケアが終了すると一目瞭然指がきれいになり気持ちも軽くAさんの表情もだいぶ和らいでいました。その時Aさんが「もっと早く来ればよかった!」と感動してくれていた姿を見て、私もとてもうれしく思いました。
施術をしながら、ご自身でもできるネイルケアの方法や定期的にネイルサロンでケアをしてあげることの大切さ、そうすることできれいな手元を作って維持していけるアドバイスなどもさせていただきました。
この時のAさんとの出会い通じて『男性でも手荒れに悩んでいる人やそれをどうしていいか困っているという方』がまだまだいるんだろうなぁと再認識させられたのと同時に、もっとネイルサロンの可能性を多くの方に知ってもらいたいと強く感じました。
その後
その後もAさんに何度かケアをさせてもらっておりその度に感動してくれています。お仕事もプライベートもお忙しいAさんですが、空いた時間でサロンに来たいといつもおっしゃっています。Aさんのお店は近所で人気のパン屋さんなので、私も時々息子と美味しいパンを買いに行かせてもらっています。
きっとこの関係性が築けたのも、手指がきれいになるだけではなく、ネイルサロンが気兼ねなく過ごせる場所だと知ってもらえたことも要因の一つかなと自負しております。
これからも爪や指先に悩む男性が一人でも多くネイルサロンへ足を運んでくれたらなぁと切に願うのでした。