ライフスタイル 私が、高齢者のための「まちの爪切り屋さん」を始めた理由

簡単そうに思える「爪切りや爪のケア」が、実は高齢者にとって難しい作業であることはご存じでしょうか。これまでの高齢者施設や訪問介護での爪のケアの経験で得た気づきから、高齢者のための「まちの爪切り屋さん」を始めるに至った経緯をご紹介したいと思います。

「毎月の楽しみ。一生爪はあなたに任せるから」 

私がネイルサロンの運営に加えて、個人で高齢者施設でのマニキュアや爪のケアの出張を始めたのは2012年のこと。高齢者や施設の関係者と徐々に親しくなる中で、高齢者が自身では爪が切りにくく、爪切りに困っていることがわかりました。視力が弱り爪先が見えにくく、股関節や腰に痛みを抱えてかがみにくいことが原因で、手だけでなく足の爪なども切りにくいのです。

時を同じくして、訪問介護会社から在宅の利用者さんの爪をケアしてくれないかと依頼をいただきました。訪問介護の有資格者が同行して下さったのでよく覚えています。手と足の爪をやすりで短くし、マニキュアを塗ったりオイルでトリートメントをしたりと、一時間ほど滞在しました。この出会いからお客様は毎月、爪のケア訪問を楽しみにして下さっています。2人で他愛もない話をして笑い合い、帰り際には「毎月の楽しみ。一生爪はあなたに任せるから」と言ってくださっています。当時80歳だったお客様は、今では87歳です。

ケアをした高齢のお客様からは、マニキュアを塗った後に泣いて喜んでいただいたり、また来てほしいとお願いされたりと、これまでのサロンを経営することで得られる喜びとはまた別の“やりがい”を感じるようになりました。

2015年には、高齢者の爪ケアの需要が高まったこともあり、一緒に行きたいと言ってくれる仲間が増えたことで、一般社団法人日本保健福祉ネイリスト協会を設立し、現在その理事を務めています。高齢者施設や障がい者施設、病院へと出張し、マニキュアを塗ったり爪やハンドケアをしたりする福祉ネイリストという民間資格を発行しています。

 

 高齢者の爪事情

その後、訪問介護会社からご紹介をいただく中で、施設なら看護師さんや職員さんが爪を切ることも多いのですが、施設に入っていない方や要介護状態ではない在宅高齢者の方々は、爪のケアがご自身では難しいし、お困りだということに直面することになりました。そこで、私の経営するサロン内でも爪切りをメニューに加えることにしたのです。

実際に、ご近所で1000枚のチラシを配ってみたところ、さっそく5件のお問い合わせがありました。ご来店いただいたお客様からは「やはり爪は自分では切りにくくなった」「足や手の爪を切ってきれいにしてもらえるとありがたい」「こんな店がもっと増えてほしい」という、とてもありがたい言葉をたくさんいただきました。

 

「まちの爪切り屋さん」の設立

この地域の中に、同じように困っているご老人が多くいるかもしれない…。そう思って、思い切って岸和田駅前の商店街の中にお店を移転することにしました。これまでは、サロンがビルの二階にあり、足の不自由な方や車いすの方は入れなかったためです。そこであえて、高齢者が多く通る商店街の入り口にあり、一階かつ路面の物件を選び、2021年の8月、コロナが猛威を振るう中、移転をしました。

以前から、サロンを新しくするなら“高齢者が通えるサロン”「まちの爪切り屋さん」にしたいと考えていました。玄関付近の入り口は段差をなくし、自動ドア、車いすでも入ってこられる間口に改装。福祉ネイリスト協会を設立してお世話になっている施設関係者や訪問介護、訪問看護の方々からたくさんのヒントをいただき、念願の「まちの爪切り屋さん」を持つ決心ができたことにとても感謝しています。

移転し、特に広告宣伝することもなく店前の通りに看板を置くと、なんとその看板だけで8月の爪切りのお客様は30名近くになりました。今までのジェルのお客様もいらっしゃいますが、スタッフたちはその需要にとても驚いていました。

 

仮説から確信へ

そこで気になったのが、お店のある岸和田市の高齢化率。大阪府岸和田市は、大阪市内から電車で25分離れている郊外です。人口198,000人、65歳以上の高齢者は27,9%と人口の約3分の1が高齢者でした。現在のお客様層が20~59歳の女性で、こちらも人口の約30%。高齢者も来ていただけるようになると考えると、サロンへの来店対象者が人口の約60%になると考えることもできます。

また、岸和田は要介護3以上の方が大阪府の水準よりも少ないことがわかり、歩いて通える65歳以上の方がたくさん存在することもわかりました。この場所はさまざまな角度から調べてみてもご来店いただきやすい高齢者の方が多くいらっしゃったのです。

 

地域密着のネイルサロン

現在、超高齢化はどこの地域にも起こっている現象です。地域密着のネイルサロンだからこそできる高齢者の爪切りサービスは、今後の需要を考えても必要とされる分野です。また、利用していただいた高齢者は、手と足の爪切りからハンドケア、マニキュアへときれいにすることを楽しむようになっていきます。こういったお客様の心の変化は、スタッフにとっての“やりがい”にもつながっています。

これからのサロンの在り方として、「まちの爪切り屋さん」は一つの選択肢となりえるのではないでしょうか。 

一般社団法人日本保健福祉ネイリスト協会では、このような高齢者の爪に関する研究発表会を毎年行っております。

興味を持たれた方はリンクhttps://fukushinail.jp/からぜひご覧ください。

 

 

>次回:「まちの爪切り屋さん」のメニュー見直しで生じた、スタッフの働き方の大きな変化

 

■プロフィール

一般社団法人日本保健福祉ネイリスト協会(fukushinail.jp)代表理事、

ネイルサロンP&B代表 荒木ゆかり

2005年ネイルサロンP&B設立、2015年一般社団法人日本保健福祉ネイリスト設立、官公庁にて福祉ネイリストの職業を広める為のプレゼンなど多数経験。また、各所で身だしなみ講座や美容講座を開催している。

資格:ネイリスト検定1級、ジェル検定上級、AEAJアロマ1級、ユニバーサルマナー検定

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